申し子

うちのお店のどうしようもないスタッフシリーズ。
(大丈夫か、SNSにこんな事あげて。)
(多分大丈夫。その為にと言うか、好き勝手書く為に誰にもブログやってるなんて言ってない。)
(ちょっと自分が怖い)

もう今は辞めたけど、K君は『ゆとり世代』の申し子みたいな子だった。

とにかくマイペース。

あたしの職場(CD、DVDの販売・レンタル業)は、毎週毎週売り場を更新しなくてはいけない。
時間との闘いだ。

朝、お店がオープンするまでに、出来る限り早く返却作業をして、朝一番にレンタルしに来られたお客様に手に取ってもらえるよう、オープンまでがある意味一番忙しい。

でもこのK君にはその概念がない。
今日中にとか、いつまでにこの仕事をやり終えるとか、そういう考えがないのかと疑うくらい、超マイペース。

土日の休配日にこのK君が鍵当番だと最悪だった。
三回に一回くらいの割合で遅刻して来る。

さすがに3回目の時は注意した。
うちのスタッフさんは誰一人声を荒げるような、気のキツい人がいない。
あたしも怒るのは苦手なのだ。
出来る限りいい雰囲気の中で仕事したいし、そうなるように気を配っているつもり。
でも、なんぼなんでもこれは酷いやろうと心を鬼にして、注意したのだ。

それなのに。
4回目の遅刻。

寒い冬の事だった。
その日から始まるセール準備がまだ終わってなくて、いつもより20分程早く出勤した。

開いてない。
「嘘やろ。よりにもよって、今日の鍵当番K君なんか?」

他の社員さんなら出勤してる時間なのだ。

K君に電話する。
出ない。

ジリジリしながら待ってると、バイトの子達が出勤して来る。
みんなかなり早めにやって来る真面目な子達なのだ。

「え?開いてないんですか?」
「うん。多分K君が鍵当番やねんけど、電話しても出ーへんねん。」
「え~。」

みんな、凍えながら待つ。

3回も4回も嫌がらせの様に電話して、やっと出た。

「K君?」
「…は…い。」
「今日鍵当番違うん?」
「あ、はい…。すみません、今起きました…。」
「みんな待ってるから、ダッシュして来て!」
「はい…。」

マジか!
なんやねん!こいつ!

夜間返却BOXに返却に来たお客さんの「スタッフさん何してんの?」的な冷たい視線と、ホンマに冷たい風に煽られながら、ジリジリしながら待ってると、やっと来た!

遅いッ!
あんたんちからやったら、もっと早よ来れるやろ!

みんなダッシュでロッカーに駆け込んで、オープン準備に入る。

ウ~💦💦

返却処理が間に合わない。
モニター付けが間に合わない。
昨日終わらなかったセール準備なんて、とんでもない。
時間が足らんーッ!

その時K君は何処行った?と目をやると、なんとバックヤードのパソコンの前に座って、のんびり作業指示かなんかを読んでる。

コンビニで買ってきたパンを食べながら。

その姿を見た時

あたしは、ブチ切れた。
(ホンマに耳の後ろの方で〝ブチッ〟って音がした気がした。)

「なぁ、自分。ええ加減にしてくれへん?何回も何回も注意したよな?」
「ほんでそれ何してんの?」
「あたしら、寒空の中待たせといて、コンビニ寄って来たん?」
「一分でも二分でも早よ行こう思うんが普通ちゃうの?」
「ほんでなぁ、ここはバックヤード言うても仕事場やねんッ!」
「ほんなに朝食食べたかったら、せめて休憩室行って来いッ!!」


あたしはスッキリした。

でも、普段怒ってる〇〇さんを見た事ない、真面目なアルバイトスタッフが文字通り震え上がってしまった。

「シーーン。」って音が聞こえたかいうくらい静まり返った。

ヤバっ。
やってもた。
けど、どうにもこうにも我慢出来ひんかってん。

みんな大丈夫よ。
〇〇さんが怒ってるのは、ゆとり世代の申し子、K君だけよ。
顔上げて。
声出して。

そして
あたしの焦りを横目に、なんとと言うか、さすがと言うか、申し子はホンマにパン持って休憩室行きやがった!

「バカタレーッ!!」
「ホンマに休憩室行くアホが何処に居てんねんっ!」
と、叫ぶのは心の中だけに必死で押し留めて、冷静さをなんとか保とうとする。

バタバタしながらオープンを迎える。
真面目なアルバイトスタッフのやまびこ挨拶の小さい事、小さい事。

マズい。

もうそこから、みんなの気持ちと空気を和らげるのに、苦労したのなんの。
もう二度と怒鳴るまいと、固く心に誓ったわ。

そしてあれから1年くらい経ったかしら。
この前、ベテランバイトのY君の送別会に申し子も来たのだ。

1・5倍くらい膨張して。

なんで?申し子?
アンタは細身でイケメンだけが取り柄やったやんか?
それがデブってどうする?
そんなに今の職場は楽なんか?
うちのお店より楽て、どんなとこやねん?

あたしの気持ちを知るよしも無く、申し子は美味しそうに串カツを食べていた。

申し子よ。
それ以上太るなよ。

アンタの取り柄は、体型と顔なんやから。
体型捨ててどうするよ?

ま、正直、どーでもええが。