『妖怪 汗タラ~リ』

この前、もう10年以上前から顔馴染みの万引き巡回員さん(この人ほんまプロ。凄いよ。)が、「独身の警察官が居てるねんけど、会ってみいひんか?」と言って来てくれた。

言って来てくれた。と書いたけど、正直もうこういうのは面倒くさい。
でも、私は紹介してもらった話は、基本断らない。
『来る者拒まず、去る者追わず。』
これが基本姿勢。

そもそも結婚願望がないので、全ての話が乗り気ではないのだけど、お見合いにしても、もっと軽い「一度会うだけ会ってみたら?」にしても、その話を持って来てくれる人がいる。
その人が、私に幸せになって欲しいという気持ちで、お世話してくれる話なので、会わずに断るという事が出来ない。
写真見ただけで、「あー、もう絶対無理。」と思ったとしても。

写真で何が分かる?という人も居るけど、50年以上生きてれば、写真見ればだいたいの大まかな性格くらいは分かる。
大きく外れる事はまずない。

大人しい人は大人しい顔になるし、キツい人はキツい顔になる。
だらしない人はだらしなさが顔に出る。
そう、生き方は確実に顔に出る。

お見合いも12~3回したような気がするけど、今でも忘れられないお見合いがある。

岐阜のメーカーかなんかに勤めてる人で、写真見た第一印象は、
「妙に力の入ってる人」
ちょっと今まで見た事ないタイプ。

ただ、私の苦手とする「太ってる男の人」だったので、もうその時点で心のメーターは全く振れてなかったのだけど。

まぁ、型通りのお見合いの出会い方をした。
なんというか、押しの強い人だった。

あたしはとにかくこういう事には、慎重過ぎるくらい慎重だ。
石橋を叩いて叩いて、渡ろうと思った時には自分で叩き割ってしまって、目の前を川がゴーゴー流れて渡れないタイプ。

だから押されると、なんちゅーか負ける。

二回目のデートで名古屋に連れて行ってもらう事になった。
あたし、名古屋この時が初体験。

連れて行きたい面白い所があると言って、連れて行ってもらったのが『大須商店街

確かに面白い商店街だった。
ただ、こういう所は二回目のデートで行くより、自分の足で片っ端から覗いてみたいのだ、あたしは。
自分のペースで相手を振り回すのも悪い気がするし、合わせて歩くのだけれど、ストレスは確実に溜まる。

この時のストレスを解消したくて、もう一回行ってみようと思ったのが、名古屋シュタインの時だったのだ。
結局行けなかったけど。

この「押しの強い人」は、話は上手かった。
なんというか、サークルとかでリーダーになるタイプ。
だから、自信に溢れてる。

でも溢れてるのは、自信だけじゃなかった。
汗が溢れて溢れて止まらない人だった。

でも、その事も「僕本当に汗かきでしょう?居酒屋とか行っても僕の前におしぼりが山になるんですよ~。」と、明るく笑い飛ばせる人だった。

でも、ホンマにその汗が半端なかったのだ。
「この人の体、水分70%どころやない、絶対90%はある」思うくらい、タラタラタラタラ汗が流れるのだ。

極めつけは夕ご飯食べに行った『世界の山ちゃん
あたし『世界の山ちゃん』も初体験。

向かい合って座って、それこそ山と積まれた手羽先を、ニコニコしながら食べはるのだけれど、もう顔から汗がタラタラ流れて、アゴからポタポタ落ちて、おしぼりで拭いても拭いても追いつかなくて、着てはるトレーナーの襟元から段々汗染みがジワ~と広がって…。

もう『妖怪 汗タラ~リ』が目の前に居るみたいだった。

怖くて怖くて、でも目が離せなくて、手羽先の味なんて全く分からない。
ただ、話合わせて時々にっこり笑ったり、「へぇー、そうなんですねー。」って相づち打ったり。
自分の中の防衛本能なのか、何なのか。
多分あの時のあたしの目は、死んだ魚の様だったと思う。

そして心の中でずっとこうツッコんでた。
「なんで世界の山ちゃん?」
「なんでよりにもよって、ピリ辛の山ちゃん?」
「なんでわざわざ汗出るもん、選んだん?」

目を離そうと思っても、アゴからポタポタ落ちる汗から離せない。

もう曲芸に近かった。

帰りの電車は地獄だった。

太ってる男の人。だけでもかなり厳しかったのだ。
なのに、首から胸元くらいまで汗で濡れてるトレーナーを着た『妖怪 汗タラ~リ』と化したその人に、あたしの最寄りの駅まで一緒に電車乗って送ると言われて、丁重に失礼のないように、断ったのに、「押しの強さ」を発揮されて押し切られ、隣に座って帰る羽目になった。

電車で交わした会話を全く覚えてない。

相手の名前も忘れた。
どうやってこのお見合いを断ったのか、それもはっきり覚えてない。

ただ、あの『世界の山ちゃん』で笑いながら手羽先を食べてる「押しの強い人」のアゴからポタポタ落ちる汗の映像だけは、天然色カラーでくっきりはっきり覚えてる。

あれ以来、『世界の山ちゃん』は、あたしの鬼門になって、二度と行ってない。

手羽先、死ぬほど好きなのに。