「ほーけ。」

裏の和子おばあちゃんが亡くなった。

御年92歳。大往生だ。

82歳のお母さんが、お悔やみから帰って来て言う。
「和子さんも年よらったわ。人間90過ぎたらアカン。ホンマに年寄りみたいや。」

……😓😓

ここで間違っても「いや、お母さんも結構なお年寄りやで。」なんて口が裂けても言ってはいけない

うちのお母さんは腰も曲がってるし、少し長い距離を歩く時は杖を使う、他人から見れば何処に出してもおかしくない立派なお年寄りだ。

でも本人にその自覚がない。
とにかくお年寄り扱いされるのを嫌う。
ま、そういう点ではやっぱり私も蛙の子は蛙なのだ。

でも、毎日ちっちゃい
「これはもしかしてリアルボケというやつか?」
「あたしはここはツッコんだ方がええんか?」
みたいな事が起こる。

「いや、その話聞くのもう〇回目やで。」は日常茶飯事。
でも、うるさがってはいけない。
毎回初めて聞くようなリアクションをする。

あたしと違ってイラチというか、やる事なす事荒けないので、電気は点けっぱなし、ドアも開けっ放し、とにかく確認するという事がない。

お母さんが留守の時に帰って来たら、扇風機回りっぱなしなんていうのは可愛いもんで。

なんか、お風呂場からジャージャー音がするなと思ったら、シャワーのカランから水が出っぱなしになってる。
「一体いつから出っぱなしなんや。」とゾッとする。

お風呂に入るのは必ずあたしが後で、全部服脱いで「さぁ入ろう」と、お風呂場のドアを開けたら湯船のお湯が全部抜けてるなんて事もちょくちょくある。
湯船の栓がちゃんと締まってないまま、お母さんがお風呂に入るからだ。
入ってる間に徐々にお湯が減って行くから、分かりそうなもんなのに。

「マジか、😵」
素っ裸のまま、壁や洗面器を洗ったりしながら、お湯が溜まるのを待つ。
これが冬だと軽い殺意が湧く。

お年寄りと暮らすというのは、一に忍耐。二に忍耐。三、四がなくて、五に根性なのだ。

この頃よくあるのが、お肉や魚を入れる冷蔵庫の氷温室に、何故か野菜が入れてある事。

お肉を取り出そうと氷温室開けたら、凍って透き通ったキュウリが一本。
「……。」
取り出して、テーブルにコンッとぶつけてなんか言おうとするけど、何にも出て来ない。
あたしにものボケの才能はない。

お母さんは高校野球は大好きで、(ただし、全くルールは分かってない)春と夏の高校野球をものすごく楽しみにしてる。
なのに、何故かプロ野球を嫌うのだ。

「お母さんはプロ野球は嫌いや。ルールがおかしいで分からへん。」
イヤ、高校野球プロ野球もルールは基本一緒や。

今日から始まった日本シリーズ
「いつまで野球してやるえ?」
阪神負けてやるのけ?」

「…………?」
どーも、ソフトバンクのビジターユニフォームが阪神に見えてるらしい。

阪神はとっくの昔に負けてんねんっ!!」

ここだけ、根性出してちょっと強めに言ってみた。

「ほーけ。」

お母さんは何の興味も示さず、お風呂に入って行った。

お母さん、今日は冷えるし、湯船の栓はちゃんと締めといて。