柴犬ライフ(アホ犬樹里編)

アインシュタインのshiba-inu.life見てたら、猛烈に愛しきアホ犬、樹里の事を思い出した。

あたしはちょっと離れた田んぼに行く時は、樹里を軽トラの荷台に乗せて移動していた。

リードを長くして括っておくと、自由に荷台の上を行き来出来る。
でも樹里は軽トラの荷台の3センチ程の幅のヘリに前足をかけて、風を全身に感じて、石原裕次郎の様に目を細めるのが好きだった。
あたしはドアミラーで樹里を確認しながら、ちょっと遅めのスピードで運転する。
樹里は無茶苦茶器用にバランスを取りながら、目を細める。

あの日、用事は何だったかもう忘れたけど、夕方に樹里を軽トラに乗せて愛知川まで運転して行った。

デーゲームで阪神が試合していて、テレビでチラチラ試合経過をチェックしていたけど、もう出掛けないと間に合わない。
「もう💢いいとこやのに~。」
「樹里~、出掛けるでぇっ。」
樹里はサッと荷台に乗っかると、前足を荷台のヘリにかけて、準備万端だ。
軽トラを運転するあたし。
阪神の試合の続きが気になる。
軽トラのラジオでチューナーを合わせながらの運転。
でも、雑音ばかり大きくて、何て言ってるのかハッキリ分からない。
今みたいに、radikoもなければスマホなんて無い時代。
ラジオのツマミを微調整しながら、ちょっとでもクリアに聞こえる位置を探す。

この一連の動作、勿論運転しながらやってます。
いつもなら樹里を乗せてる時は、左折右折する時は勿論、カーブでもスピードを落として、樹里がヘリから落っこちないように細心の注意を払って運転する。
でもハッキリ聞こえないラジオにイライラしてるあたしの意識の中から、樹里の存在は完璧に忘れられた。

「アアッもうっ💢全然聞こえへんっ!」
「ちょー、どーなってんのよ!試合終わってまうやんっ!」

左手でツマミの微調整を行いながら、右手一本でハンドルをさばく。
そして赤信号で止まった。
「もぉ~、何やねん、このラジオ💢」
結局雑音ばかりで阪神の試合の様子が分からない。
ラジオを聴くのは諦めた。

ふっとドアミラーを見る。
右側を見る。
樹里が居ない。
左側を見る。
樹里が居ない。

「えっ?何処行ったん??」

信号が青に変わった。
とりあえず軽トラを交差点から進めないと…。
そして発進した時、かすかに〝ドタンバタン〟と音が聞こえた。

「…樹里?」

軽トラを路肩に停めて降りたあたしの目に、ヘリに前足をかけて石原裕次郎になり切っていたはずの樹里が、外側に落っこちて宙ぶらりんになって、白目剥いてジタバタしている姿が飛び込んで来たっ!

「樹里ッ!!」

慌てて抱き上げて荷台に戻す。
樹里は口からヨダレをダラダラ流して、足がブルブル震えて、もう異様な興奮状態。
「ウォ~ウォ~」と、聞いた事ない声で鳴き続けた。

幸い落っこちてすぐ気が付いたみたいで、樹里の命に別状は無かった。
でも、恐ろしい目に合った樹里の興奮は収まらない。
「ゴメン、ゴメン。」
必死に樹里の背中をさすりながら抱き寄せる。
あたしの腕の中で、しばらく樹里は「ウォ~ウォ~」と鳴き続けた。

リードを短く括り直して、再び出発。
荷台の上をあっちにヨロヨロ、こっちにヨロヨロしている樹里をルームミラーで確認しながら、やっと目的地に着いた。

もうちょっとで樹里を殺してしまうとこだった。
帰り道も細心の注意を払って運転して帰った。

それから樹里は、もう懲りたかと思いきや、次のお出かけの時には何事もなかったかのように、自分から荷台のヘリに前足をかけて石原裕次郎になる準備万端だった。

チャレンジャーとして強いハートの持ち主なのか…。
ただ単に、前の記憶があんまりないのか…。

確実に後者だ。

そしてあたしは、樹里を乗せている時は、阪神が試合していようとも、ラジオを聴くまいと固く心に誓った。

18年飼っていた樹里が亡くなって、その別れがあんまり辛くて、もう二度と犬は飼わないと誓った。

でもやっぱりもう一度犬飼いたいな。
そん時はやっぱり柴犬がいい。

樹里みたいに、ちょっとアホな犬がいい。