和牛という名の化け物
やはり、この話題をスルーする訳にはいかない。
和牛がM-1 卒業 する意向とのこと。
なんですとっ?
今年の頭には二人で話合っていたと言うでは無いか。
M-1 直後の千鳥さん相手の大反省会の時の水田君の表情。
いつもの負けん気全面に出してるのとはちょっと違った。
スッキリしてるのとは違う。
悔しい、悔しいけどこれはもう仕方ない。
自分の中で割り切り方を見つけた様な。
二人が何年も漫才にド真剣に向き合って、M-1 の頂点目指して挑み続けて、あと一歩の所で跳ね返されて。
「もうこれ以上の漫才て…。俺らどうしたらええねん。」
「後、何が足らんのか教えてくれ。」
「M-1 が全てでは無い。劇場に足を運んでくれるお客さんの前で日々立ち続ける舞台こそ、大事にせなアカンのと違うか。」
「出来る努力は全部して来た。もうこれ以上絞り出しても何にも出ん。」
お笑いファンなら誰もが思い浮かべるペラペラの想像しか出来ない。
でも多分、どれもが当たってて、どれもが薄っぺらで全然足りて無い。
二人が決めた事に、ただお笑いファンであるというだけで、あれこれ言うのはタブーなんだろう。
失礼なんだろう。
二人の心が決まってるなら、周りからゴチャゴチャ言われたくは無いだろう。
でも、言わせて。
『和牛がM-1 チャンピオンにならなくてどうするッ!』
あたしが生まれて初めて劇場に漫才を観に行くきっかけは、M-1 での和牛の漫才に感動したからだ。
「面白い!凄い!何なん?この人ら!」
そこから和牛を検索し、YouTubeにアップされてる漫才を見たり、ラジオ番組で話してるのを漁ったり。
見れば見る程、知れば知る程、自分の中の和牛への期待がどんどん膨らんで、チケットよしもとに登録して劇場に足を運んだ。
2018/4/18
西梅田劇場 ワラスイ よる寄席
和牛への期待を熟成させて、満を持して観に行った。
何故西梅田劇場での公演を選んだのだったか。
その辺の細かい事は忘れた。
でっかいプレハブ小屋みたいな劇場。
今まで自分が足を運んで来た演劇やライブの舞台からすると、まさにプレハブ。
外を走ってる車のクラクションがダイレクトに聞こえる。
電車がホームに近付いて来たのが分かる。
「なんじゃ、こりゃ?!」
あまりの漫才を行うには劣悪な環境の小屋に衝撃を受ける。
「こんなん漫才に集中出来ひんやん。」
前説を見ながら押し寄せてくる不安と不満。
緞帳が上がった。
和牛のお二人登場。
西梅田劇場は満席では無くて、自分一人が思いっ切り大きく拍手したら、悪目立ちしそうで、控え目に拍手した。
心の中で「キャーッ💕」って言いながら。
和牛のネタはあたしが『鶴の恩返し』と名付けてるネタ。
二人の軽快なやり取り。
水田君の少しだけ甲高い声と、賢志郎君の心地いい声。
計算し尽くされた間と絶妙な表情で、笑いのツボを刺激しまくる。
「はぁ~、やったぁ。生で観れたぁ。」
和牛だけでは無い。
他の芸人さんの漫才にも大満足して、何でもっと早く劇場に足を運ばなかったのか、無茶苦茶後悔しながら西梅田劇場を後にした。
そこからあたしはハマり倒す。
二週間に一度のペースで劇場に通った。
凄いのは、7月まで8回和牛のネタを観て、全部ネタが違った事。
単独ライブに向けて、色々なネタを試していたのかも知れないが、全部がハイレベルだった。
「どんだけネタ持ってんねん。」
劇場行く度に、新しい和牛に出会える。
この頃から和牛って化け物だと思い始めた。
2018/7/22
広島県 アステールプラザ 大ホール
和牛の全国ツアー
「ホールでみんなで騒ごやないか!近隣の人達に迷惑かけんとこな!」
(タイトルが長い。そして、ダサいッ!)
新幹線に乗って一人広島まで向かった。
教祖の様に崇めているGACKTのライブでも大阪までしか行った事無いのに、広島まで行くのは田舎者のあたしにとっては、大事件だった。
広島駅から会場への行き方が、超絶方向音痴のあたしには難関で、駅の周りをウロウロ。
そして発見したのだ。
和牛の黒と白のチケットホルダーを握り締めてる中学生位の女の子二人連れ。
「居た!和牛ファン!」
その子達のお母さんよりも確実に年上のあたしが、こっそり後を付けてバスに乗り込み、それでも不安で車内をこっそり見回して会話に耳を澄ませたら、乗客のほとんどが和牛ファンだった。
最寄りのバス停から会場まで、列をなして向かう和牛ファン。
その中に埋もれるあたし。
同志に囲まれてる様な幸せ。
会場はとても大きくて綺麗なホールだった。
和牛の人気が爆発し始めた頃で、ちょっとアイドルのコンサートみたいな雰囲気。
新幹線に乗る頃から抱えていた心細さは、期待と高揚感に取って代わった。
二人が登場。
悲鳴に近い歓声が上がる。
思いっ切り拍手した。
劇場では他の芸人さんの出番もあるのに、和牛だけに力一杯拍手するのは失礼な気がして、いつも他のコンビとあまり変わらない様に拍手していた。
でも、今日は和牛の単独ライブ。
遠慮する必要は無い。
思いっ切り両掌に力込めて拍手した。
ネタ3本とVTR にゲームコーナー。
最後は水田君がアイロンヘッドの辻井君に教えを請うて練習した、〝ティッシュ配りの女の子〟のギター演奏&歌。
隣の女の子が、「水田君可愛い、水田君可愛い~。」とずっと言ってて、世の中色んな需要があると実感した。
和牛の実力、人気、魅力。
思う存分に触れてホテルに戻った。
この和牛の単独ライブは、あたしにとってはターニングポイントとなるものだった。
最初、和牛に導かれて踏み込んだ劇場通い。
当時のチケットの半券と共にメモしてある出演者を見ていても、完璧に和牛一点狙い。
それがこの単独ライブの時には、アインシュタイン推しになっていた。
(いついつからとハッキリとしたきっかけが思い出せない。)
(ヌメリ、やんわりとアインシュタインに侵食されていったあたし。)
行きの新幹線で起きた出来事を、和牛の単独ライブの余韻に浸るホテルのベッドで、アインシュタインのヒラメキラジオ宛に送るメールの文面を練りまくっていた。
そして、ヒラメキラジオで採用され読み上げて貰って、ガガガーッとアインシュタインに傾倒して行く事になったのだ。
この夜の事を「お笑いメモリアル二股事件」とあたしは名付けている。
ここから、和牛狙いのチケット取りから、アインシュタイン狙いのチケット取りに完璧に移行した。
(一応書いておくが、このブログは和牛を賞賛する為に書いている。)
(事実って結構残酷なのだ。)
劇場で和牛に出会える回数はグッと減った。
(ま、あたしがそうしているのだから、如何ともし難い。)
でも、たまに観るからこそ、和牛の漫才の質の高さは際立っていた。
「質が高い」
「上手い」
「技術が凄い」
よりも、
「無茶苦茶面白い」
「もう死ぬ程笑った」
と言われる事の方が、多分二人は喜びを感じるのかもしれない。
お客さんをひたすら笑わす。
この一点の為に妥協せずに精進し続け、その結果「面白い」よりも「凄い」と評される事が増えて行く矛盾、ジレンマ。
この推測が当たっているとするなら、「面白い」も「凄い」も、両方手に入れる事が出来ない芸人がごまんと居る中で、それはとてつもなく贅沢な悩みだとも思う。
3年連続M-1 準優勝という、テレビ的にも話題的にも、和牛はM-1 においてよりドラマチックな存在になって行く。
そして、今年。
和牛、まさかの準決勝敗退。
ネタを温存したのが裏目に出たという噂もあるが本当だろうか。
今年を最後に。と年初には考えていたのなら、練りに練った作戦とネタ。
それでも敗退してしまう非情。
でも、準決勝ライブビューイングを観に行って実感したのは、とにかく各組の漫才のレベルが、3、4年前と比べても桁違いに上がっている事。
あの和牛でさえ勝ち上がれ無い、日本一面白い漫才師を決める大会。
日本中の注目を集めて、M-1 はもうお笑い界だけの祭典では無くなった。
そのM-1 でしか得られない称号、達成感、頂点。
M-1 に挑み続けた先輩や、挑戦して跳ね返された事のある同期や後輩。
現場の芸人さん達程、和牛の選択に簡単に口出しは出来ないものかもしれない。
あたしの様なただのお笑いファンだからこそ、無責任に好き勝手に色々言える。
だから、書く。
和牛の漫才でチャンピオンになれないって、どう捉えたらいいのか。
一日のネタ2本で決まる大会だから、勢いがある組が有利なのは分かる。
でも、他の漫才師からも絶賛を浴び、先輩からは恐れられ、後輩から目標にされる漫才師がチャンピオンになれないって何だ。
それがM-1 の難しさで、それがM-1 のM-1 たる所以だとしても。
水田君と賢志郎君。
二人は疲れてしまったのだろうか。
1年中、年の瀬の化け物と化した大会に向けて、計算しては作戦を練りネタを繰る。
その日常に疲れてしまったのだろうか。
和牛=M-1 と、一並べで肩書きの様に語られる事に辟易してしまったのだろうか。
それなら、来年1年ゆっくりして欲しい。
M-1 を外から眺める事で、きっと今まで見えなかったものが見えるに違いない。
そして、加熱する戦いの真ん中に和牛が居ない事を、堪らなく悔しく堪らなく寂しく感じるに違いない。
そして、再来年、もう一度チャレンジして欲しい。
M-1 挑戦、和牛ラストイヤー。
それに挑戦せずして、漫才師と言えるのか。
かまいたちだって、去年「もうM-1 からは卒業するつもり」とカメラの前で言っていたではないか。
それでもエントリーした。
(敗者復活戦の出番順のくじ引きで、アインシュタインが最初に呼ばれた時、〝かまいたちが居なかったらアインシュタインは上がれてたのにっ〟と沸き上がって来た気持ちを、お笑いファンのプライドと意地に掛けて殺した。)
前言撤回は有りなんだ。
かまいたちが松本さんに1票入れて貰って成仏出来たと語っていた。
和牛が真正面からM-1 に 挑んで、散るのか頂点を取るのか。
和牛にしか出来ない成仏の仕方を、お笑いファンに見せて欲しい。
無茶苦茶熱いがな、あたし。
M-1 は漫才師だけでなく、お笑いファンまでもおかしくしてしまう。
少し、落ち着いてと。
水田君、賢志郎君。
お疲れ様でした。
「面白かった!」
「素晴らしかった!」
二人の負けん気にメラメラと火が点く様に、あたしは滋賀県の片隅から念を送り続けます。
ありがとう。