隣人のその先。その⑧【脳内アニキvol.23】

2020年9月17日

家族と喋れた安心感からか、楓はぐっすり眠り、目覚めたのは10時過ぎだった。

ゆずるから電話掛かって来たかな…?

スマホを見る。

着信履歴は無かった。

でも、大学で出来た友達、詩織からlineが来ていた。

詩織「大丈夫?何かあった?」

楓「ゴメン。実はPCR検査受けててん。」   
詩織「えっ!」

なんて打とうかと迷ってたら、詩織から電話が掛かって来た。

詩織「楓ちゃん、何?どうしたん?どうもないの?」
楓「ゴメン。黙ってて。」
詩織「そんなん良いけど、ホンマに大丈夫なん?」
楓「うん。別にどっこもしんどくないし、多分陰性やと思うねんけど、今日結果が分かるねん。」
詩織「あ…高熱が出たとかや無いんや?」
楓「うん。マンションの隣に住んでる人が陽性になって、それで楓も一応検査受ける事になっただけ。」
詩織「ええっ。隣の人が?そっか…。それちょっと怖いね。そういう場合って、マンションの人みんな受けるんや。」
楓「ううん。多分楓だけやと思う。楓はその人と結構喋ってたし。」
詩織「ええ~、あたし自分のアパートの隣の人となんか、挨拶交わすくらいしかした事無い。楓ちゃん、凄いな。」
楓「その人、大阪の人やねん。ほやし……、なんちゅーの…?関西弁で喋れるのが嬉しいんやと思う。」
詩織「う~ん。分からん事も無いけど。」
楓「なんかやたら人懐っこいねんか。」
詩織「ああ!距離がやたら近い人!」
楓「そやねんっ。なんかやたら近いねん。」
詩織「男の人?」
楓「うん。」
詩織「幾つくらいの人なん?」
楓「ええ~~と…。40くらい?」
詩織「おっさんやんッ!え、大丈夫なん、それ?」
楓「大丈夫って?」
詩織「楓ちゃん、狙われてんのちゃうん?」
楓「どうかなぁ~。」
詩織「え、結婚してはんの?」
楓「ううん。独身。独り暮らし。」
詩織「やっぱ、ちょっと危ないって!楓ちゃん、気許したら犬みたいにゴロゴロ行くとこあるやん?誤解されるで。」
楓「え~~っと。多分大丈夫やと思う。ただ若い子と喋りたいだけ違う?」
詩織「なんか心配やわぁ…。40で独身なんやろ…。若い子が隣に越して来た。このチャンス逃がしたら結婚出来ひんとか思って、近付いて来てんのと違うん?」
楓「確かにそうかも。」
詩織「まさか部屋に行ったりした?」
楓「行ってない、行ってない。」
詩織「部屋中に2次元のフィギュア飾ったるパターンちゃう?ホンマに気ぃ付けてな。」
楓「や、むっちゃいい人なんやで。」
詩織「そんなん大阪から出て来たばっかのJK上がりの子、優しいするに決まってるやん。うちの親なんか、同じアパートの人でも男やったら、挨拶さえちゃんとしたら、後はあんまり親しいすんな、何があるか分からんからってむっちゃウルサいで。」
楓「や、そういうのでは無いと思う…。」
詩織「やからそんなん分からんって。も~、なんか心配やわぁ。コロナよりそっちの方がよっぽど怖いし。」
楓「フフフ。」
詩織「何?」
楓「心配してくれて嬉しい。」
詩織「当たり前やん。もうちゃんと連絡してな。結果も教えてな。」
楓「うん。絶対連絡する。」
詩織「どうも無い事祈っとく。」
楓「ありがと。」
詩織「ほなね~。」
楓「うん。ありがとう。」

PCR検査を受けた事が分かって、詩織がlineでは無く、直ぐ電話して来てくれた事が嬉しかった。

なのに、ゆずるからは一向に電話が無い。

「もうちょっと心配してくれてもええんちゃうん?」
「自分から電話番号聞いたくせに。」
「やっぱあれは保健所に連絡する為だけやったって事…?」
「楓の着歴残ってるはずやのに…。」
「なんか、ゆずるってもっと気ぃ使いやと思ってた。」
「楓が一人でこんな不安で居てんのに。」
「何なん。なんか段々腹立って来たわ。」
「知らん。もうゆずるなんかホンマに知らん。」
「コロナでやられてもうたらええねんッ。」
「電話なんか掛かって来ても、絶対出えへんねん。」
「ちょっとテレビに出てる思って、バカにすんのもええ加減にしいやっ。」

スマホを前に毒づき倒していたその時、スマホが鳴った。

ゆずるからだった。

秒で出た。

楓「ゆずる?」
アニキ「楓ちゃん、ゴメンな。電話くれてたんや。」
楓「ううん、ううん。そんなんええねん。ゆずる、どうもないの?」
アニキ「いや、アカン。マジしんどい。やっとちょっと熱下がったけど、まだ頭痛いし。」
楓「ええ。そんなしんどかったんや。ゴメン、楓、何にも知らんかった。」
アニキ「しんどうて電話出れんかってんやん。ゴメンな。それより楓ちゃん、検査受けた?」
楓「うん。昨日受けた。結果は今日分かるはずやねんけど、まだ連絡無い。」
アニキ「なんか悪かったなぁ。怖い思いさせて。陽性やなかったらええねんけどな。」
楓「大丈夫やで。楓、陽性でも別にゆずるの事恨んだりせえへんし。」
アニキ「アハハハ。」
楓「ゆずる、ずっと家に居るの?」
アニキ「いや、療養する為のホテルがあるねんや。今日これからそこに移る。」
楓「ええ?そうなんや。ゆずる、ちゃんと帰って来る?」
アニキ「帰る帰る。早よようなって仕事復帰せなアカンしな。」
楓「仕事…。そやんな。」
アニキ「そしたら、楓ちゃん、結果分かったら教えて。やっぱ気になるし。ホンマ陰性やとええねんけどな。」
楓「うん。電話する。」
アニキ「ああ。頼むわ。ほしたら。」
楓「ゆずる?」
アニキ「はい?」
楓「早よ、ようなってな。楓祈っとくし。」
アニキ「おお、ありがとう。」

…………………💕!

ゆずるから掛かって来た!
ゆずる、楓の事ちゃんと心配してくれてた!

楓は幸せだった。
あんなに昨日不安だったのが嘘みたいに。

着歴に残る『ゆずる❤』の表記。

見ながらニヤニヤが止まらない。

記念にスクショした。



つづく。