ガラスの温室と野ざらしの畑。

左の耳の穴が痒い。

ずーっと、ここ3ヶ月くらい、左の耳の穴が痒い。

蚊に刺された時や、漆に負けて湿疹が出た時みたいな猛烈な痒さでは無い。

肘を擦り剥いて、ちょっと血が滲んで、かさぶたになって、もうあと二日くらいしたら自然とかさぶたが取れるかなぁって時の痒みくらいの痒さ。

右耳は全くどうも無い。

なんでか、左の耳の穴ん中だけが痒い。

仕事中、油断してると左手の小指でホジホジしそうになる。

さすがに、人の目につく所で、耳ん中に小指突っ込んでホジホジすんのは憚れるので、グッと我慢する。

でも、どーしてもホジホジしたくなった時用に、綿棒を鞄に忍ばせる様になった。

ほんなに痒いんなら、耳鼻科行けよと言われそうだが、あたしは基本病院には行かない。

人間の本来持ってる治癒力ってなかなかのもんで、それを薬だ注射だと、外的要素に頼ると、持って生まれた治癒力の頑張りどころを奪う事になる様な気がするのだ。

ウダウダ書いたが、端的に言えば病院が嫌いなのだ。

その上、地元の耳鼻科の個人医院は、先生が恐ろしく怖い事で有名だ。

学生の頃(一体何年前なんだ…。)、風邪を引いて鼻が詰まった次の日、耳の奥が割れる様な痛みにのたうち回って、親にその耳鼻科に連れて行ってもらった。

膝の上で怖がって泣いている幼稚園児を抱きかかえる母親に、「じっとさせな診れんがなッ💢」と怒鳴ってる先生を目の当たりにして、えらい所に来てしまったと後悔した。

あたしの番になり、痛がってる耳にライトを当てて一言「中耳炎や。」と言うと、20センチはあるかと思われる鉄の串みたいなもんを持って、いきなり顎を掴まれ、無言でその鉄の串をいきなり鼻ん中に突っ込まれた時は、「ヒーッ💦串が鼻ん中から後頭部突き破って出てまうッ💦」と、気絶しそうになった。

まぁ、そんな事は無く。

結果、その長い鉄の串は後頭部を突き破る事無く、詰まってた鼻が通って、随分楽になったのだけれど、あの時の恐怖は未だに鮮明に覚えていて、耳鼻科に足が向かない。

ってたって、もうとっくにあの先生はおっ死んでるだろう。

うん?
あ。訂正。

あの先生はお亡くなりになっておられるに違いない。

そんな先生との思い出に浸りつつ、綿棒でホジホジする。

ホジホジしながら、いつもあたしは脳裏にモリシが浮かぶ。

モリシが毎月エッセイを載っけてもらってる小説幻冬。

自分が働いてる本屋で立ち読みした時に載ってた、耳糞ホジホジすんのが大好きなモリシがある時、急に耳が聞こえなくなって、耳鼻科で診てもらったら、恐っろしくでっかい耳糞が奥に詰まってて、スッポンと抜いてもらったその耳糞の塊を小瓶に入れてお土産に持って帰ったと言う身も蓋もない話。
(そう言えば、あの立ち読み以来、小説幻冬読んで無い。)

あたしは綿棒で耳ん中ホジホジしている時、パーマヘアを掻き上げ、小首をちょっと傾けながら耳かきでホジホジしてるモリシと自分が重なる様な変な感覚に陥る。

「モリシ、どっか行けや。」と思いながらホジホジする。

今日も重なって来ようとするモリシを追い払いながら、12月に放送されてたVS嵐を見ていた。

嵐のメンバーが自分のチームで一緒に組みたい人をドラフト指名するスペシャル企画。

ジャニーズの中でも、身体能力に自信のあるそうそうたるメンバーに混じって、何故かよしもと枠として、フジモンさんとせいや君と濱家君が出ていた。

アインシュタインが出てる訳では無かったので、あたしは濱家君目当てで録画した事になる。

「こんなん普通に考えたら、よしもとの3人残ってまうやろ。」と思って見てたら、フジモンさんはもうちょっと前に出てたアメトーークの嵐大好き芸人での、嵐に対する熱量の高さが買われたのか、結構早めに重複指名される事に。

その後もドラフトは粛々と進み、最後まで残ったのが、案の定せいや君と濱家君。

想像通り。

そして、想像するまでも無く、濱家君よりもずっと若くて、運動センスがあるとは思えないけど、ネタ中もちょこまか動き回るせいや君と、やたら図体がデカい上に、40手前ってハンデしか無い濱家君を天秤に掛けた結果、最後の最後まで指名される事無く、残り続けた濱家君。

お情けで松潤に拾ってもらう。

濱家君は、いじけて拗ねる様なポーズを取ってたけど、マジで「恥ずい恥ずい…。」と焦ってるのが透けて見えて、なんか見ててムズムズする。

松潤チームは、SixTONESジェシー君との3人。

あたしはジェシー君の事は全然知らないけど、多分SixTONESの中ではお笑い担当なんだろう。

一発ギャグみたいなんをかましてくる。

こうなれば、勿論流れは濱家君にも一発ギャグを振られる訳で、ジェシー君と濱家君が一発ギャグのラリーで応戦。

結果。

ジェシー君の圧倒的勝利。

多分、何万人と言うファンを前に、ライブなんかでも披露してるんだろう。

ジェシー君の一発ギャグ、完璧に出来上がっていた。

そして、それに対する濱家君。

多分「ヤバいヤバいヤバい。」と焦りまくってたに違いない。

そして、それを見ているあたしがなんでか、堪らなく恥ずかしい気持ちになった。

「なんぼ相手がジャニーズでも、一発ギャグで負けんなよ。」

ホジホジしていた綿棒に目をやる。

ちょっと血が付いていた。

お笑いファンとして負傷した気分だった。

濱家君、オープニングから何処か所在なさげだった。

いつものバラエティ番組で、お笑い芸人相手にオラオラしてる濱家君は何処にも居なかった。

「なんかちょっとどうやって居てたらええんでしょ?」的な戸惑い、緊張、不安。

「これ、最後まで選んでもらえへんかったら、むっちゃ恥ずいやん…。」と不安に思ってた通りの展開に軽く心折れてるのが見て取れる切なさ。

しかし、この番組見て改めて思い知った。

ジャニーズ事務所吉本興業

日本のテレビ番組において、この2つの巨大事務所は無くてはならない二大巨頭かもしれない。

でも、なんちゅーか畑が違う。

最先端の温度管理や給水システムを備えたガラスの温室で育てられた百合やカーネーションやひまわりがジャニーズ事務所とするならば、野ざらしの広大な畑が吉本興業

何処に何が植わってんだか、広過ぎて植えた本人も分かってない畑。

手入れも行き届かない、水も十分にやれない、自然の雨露が頼り。

草と間違われてむしられてしまった野菜の芽が干からびてたり、伸びっぱなしの蔓を辿って行ったら、土ん中からお芋が出て来て、結構上手いもんが採れたり、「お。花が咲いたぞ。何が実るんやろ?」と楽しみにしてたら、烏に突かれて実り切る前に朽ちたり。

ガラスの温室と野ざらしの畑。

ジェシー君と濱家君の一発ギャグのラリーに見て思う、芸能界における畑の違い。

あたしはエンドロールが流れ始めた所で無意識に削除してしまっていた。

あれは12月。

収録は、もっと早かったはず。

今、リアルタイムの番組で見る濱家君が、芸人さんと楽しくオラオラしているのを見ながら、ちょっとホッとしている自分が居る。

せっかく録画しといたのに。


「一発ギャグで負けんなよ。」