幼稚園児のあたしへ。
母上を連れて、天童よしみさんのコンサートに行って来た。
ソーシャルディスタンスコンサートとして行われた公演。
座席は一つ飛ばし。
前の席とは互い違い。
一応、八日市文化芸術会館のお膝元、地元中の地元民としては、芸文(地元民はこう呼ぶ。)が満席の時も知ってるので、それからすると淋しいのは淋しい。
でも、隣の席に荷物は置けるし、前の席の人が背が高くて視界の邪魔になるなんて事も無い。
これはこれで快適か。
イラチの母上の為に、開幕30分前には席に着く。
ものの見事に60代以上の年配の方ばかり。
あたしでかなり若い方。
いや、これもしかしたら最年少か?と思う年齢層。
でも、このコロナ禍の中、それでも天童よしみさんの生歌が聴きたいと、雨の中足を運ぶ年配の方がこれだけ居る。
これって凄い事。
そう思いながら、ゆったりしてたら、左後方から聞こえて来るこの音。
「クチャクチャ、カッ、クチャクチャ、カッ…。」
何?
何か分からへんけど、不快な事だけは分かる。
お客さんの入りを確かめるフリをして、左後方を見る。
70代半ばくらいのおじさんが、メントスを食べていた!
メントスを噛む「クチャクチャ」と言う咀嚼音と、その度に入れ歯が当たる「カッカッ」だった。
「ウ~~~。辛い。」
咀嚼音なので、そんな無茶苦茶デカいボリュームで聞こえて来る訳では無い。
でも、こういう音って、一旦気になり出すと、ずーっと気になる。
ちなみにあたしは「クチャクチャ」音を立てて食べる人が無茶苦茶苦手だ。
22、23歳の頃。
8つくらい年上の人に「付き合って欲しい。」と言われた。
正直、好みのタイプでは無かったし、ほとんど喋った事無いのに、なんで「付き合って欲しい。」になるのか、ちょっと不思議で、断ろうかと思ったけど、勇気振り絞って告白してくれてるのに、たいして知りもせずいきなり「ごめんなさい。」は失礼か…。
と言う思考回路の元、「いきなり付き合うでは無くて、とりあえず一緒に食事にでも行くではどうですか?」と提案して、食事に行った。
この提案、結果大正解だった。
恐ろしく「クチャクチャクチャクチャ」音を立てて、食べる人だったのだ。
「わざと咀嚼音を人に聞かせたいのか…?」と思う程。
もう断る一択しか無くなったのに、「ご飯をクチャクチャ音立てて食べる人が苦手で…。」とは言いにくく、ボーリングに行ったり、映画に行ったり、断る理由とタイミングを見つける為に、無駄に一緒に過ごすという不毛な経験をした事がある。
あの時、何処に食事に行ったとか、ボーリングがどんな感じだったのかは、全く覚えて無いのに、未だにあの「クチャクチャ」音は再現出来る気がする程、ハッキリ覚えている。
そんなこんななあたしなのに、これから天童よしみさんの素晴らしい生歌を楽しもうという時に、「クチャクチャ、カッカッ。」はヒジョーに辛い。
「う″~、早よメントス食べ終わってくれ~~。」
でも、隣のおばさんとあーだこーだとお喋りにも忙しいそのメントスおじさんは、なかなかメントスを食べ終わらない。
「どれくらい食べ終わったかなぁ~」と、またしても周りを見渡すフリをしておじさんを見る。
メントス、まだ半分以上残ってるっ!
「喋ってんと、早よ食べ終わってくれよっ!」
「これ、歌に集中出来るかなぁ…。」
不安に思っている内に開幕。
生で初めて見る天童よしみさんは、リアル5頭身。
むっちゃ可愛い。
恐ろしく歌の上手いゆるキャラみたい。
『珍戸物語』も『道頓堀人情』も素晴らしかったけど、玉置浩二さんの『ワインレッドの心』がまた素晴らしかった。
玉置浩二さんのちょっと掠れた切ない歌声とは違う、お腹にドンと来る極上のバラード。
舞台装置は無し。
バックバンドの皆さんと、男性のダンサーさんが一人、曲に合わせて踊るもの凄くシンプルな構成。
とにかく天童よしみさんの歌声で魅せる舞台。
オープニングから曲が進むにつれ、どんどん伸びやかに声量が増して行く。
オーケストラをバックに歌うとか、大会場の最先端舞台装置で歌うのでは感じられない、化粧箱に入った歌では無い、そのまんまの天童よしみさんの歌声を堪能出来て、むっちゃ満足。
休憩も挟んで、丁度2時間のステージが終わって緞帳が降りる。
それまでとても行儀良く、聴き入っていたお客さんから「アンコール」の手拍子が。
あんなに行儀良く聴いてたのに、ここでアンコールが起こるんやと、ちょっとびっくりする間もなく、直ぐに緞帳が上がる。
「早いっ。」
まさかのアンコールと言う天童よしみさんが選んだ曲は、みんなで楽しく歌える曲をと、アニメいなかっぺ大将の主題歌『大ちゃん数え歌』。
「やった!!」
1970年代に放送されてたいなかっぺ大将は、あたしの大好きなアニメで、毎週欠かさず見ていた。
当時、その主題歌を歌っているのが、天童よしみさんだとは全く知らないで、テレビの前で一緒に歌っていた。
1985年、天童よしみさんが珍戸物語で大ヒットを飛ばし、一躍人気者歌手になって以降、何かの歌番組でこの歌を歌っているのを見て、「大ちゃん数え歌って、この人が歌ってたんか!」ってびっくり。
その『大ちゃん数え歌』を目の前で天童よしみさんが歌ってくれる幸せ。
一緒に口ずさみながら、むっちゃ手拍子に力入れた。
幼稚園児のあたしへ。
「大ちゃん数え歌、覚えといてくれてありがとう。」
そう言えば、「クチャクチャ、カッカッ」は、一度も気にならなかった。