人生のオプション

イテテテ……。
あ~、膝が痛い。
どうしたもんだか。
2月に入ってから、なんか痛いなぁと思いつつ、骨が痛い訳でもないし、筋が伸びたかなんかかいなと思ってほっといたら、完全にびっこ引いてでしか、歩けなくなってしまった。
左膝が痛いからかばって歩いてたら股関節まで痛くなってきた。
マネージャーに「かなり辛そうですけど大丈夫ですか?」と心配される始末。

あたしは自分の身体にかなり無頓着。
そして、「痛い」「辛い」と口にするのは格好悪いと考える昭和40年代生まれ。
おまけに病院大嫌い。
そんなこんなで、お母さんやお店のスタッフから早く病院行けと言われるのを、「行った所で散々待って、湿布もらうくらいやん。時間とお金の無駄やん。」と相手にしてこなかったのに、洒落にならなくなってきた。
ヤバい。
疼いて来た。
あ~、痛ぁ……。

もうじき田んぼ始まるのに、ちょっとヤバいかも。
病院行くべか?

しかし、まともに歩けなくなって分かる五体満足の有り難さ。
あたしは普段歩くのかなり早い。
人混みの中をサーッとすり抜けてカッカッカッと歩く。
なので、このびっこ引きながら一歩一歩ゆっくりしか歩けないというのが、かなりのストレスなのだ。
知り合いに足の悪い人が結構居てるけど、みんなこんな不自由な思いをしてたのね。
イテテテ…。
自分の部屋が2階やから、手すりに必死に捕まって上り下りする。
手すり付けといて良かったわぁ。

見た目腫れてる訳でもないし、青じんでる訳でもないねんけどなぁ。
何したんやろ??

病院大嫌いのあたしやけど、乳腺クリニックにはちゃんと行ってる。
この前CTの結果を聞きに行った。
〝何の問題もなし〟
有り難や有り難や。

早いもんで、左乳房の全摘出手術を受けてから3年と5ヶ月。
だいたひかるさんが、全摘出した後、何故再建手術を受けないか語ってはる中で、
「次から次へと大きな決断をしなければいけない中で、再建の事まですぐには考えがいかなかった。」という様な事を言われてたけど、ものすごく分かる。

あたしも乳癌の告知を一人で聞いて、先生の第一声は
「手術は早い方が良い。一番早くて〇月〇日なら出来ますよ。」だった。
ちょ、ちょっと待って。
乳癌と言われて、左乳房を全摘出します。と言われて、その場で手術の予約なんて入れられない。というのが正直な気持ちだった。
「とりあえず家族と相談します。」とその日は帰った。
結局お姉ちゃん達と相談して、やっぱり手術するなら一日も早い方が良いとなって、電話で予約を入れて、約二週間後に手術した。
手術の前に、一旦全摘出して半年以上期間空けてから再建手術を行うか、再建を見越して全摘出手術と同時にエキスパンダーを入れるか、或いはお尻やお腹の肉を持ってきて再建するか、三択を迫られた。
この時も全摘出手術で精一杯で、再建手術まで頭が回らないというのが正直な気持ちで、「とりあえず全摘出してから考えます。」と答えた。

とにかく大きな決断を次々下さないといけなかった。
あたしの場合は真ん中のお姉ちゃんが乳癌の乳房温存手術を受けているので、その体験を聞けたからまだ良かった方かもしれない。
実際同室になった乳癌仲間も、自分の決断がこれで良かったのか、不安に思ってる部分がかなりあった。

あたしは加藤乳腺クリニックで手術した事に後悔は全くない。
お世話になってるので感謝の気持ちが大きい。
ただあたしはかなり肝が据わっている方なので、いざ決めたら全くジタバタしないけど、普通はかなり迷うし、精神的にも不安定になると思う。
元々滋賀県に一つしかない乳癌専門医というので、混んでいるのに、北斗晶さんが乳癌を公表された後で、余計混んでいたせいもあるけど、もうちょっとゆっくり考える時間とゆっくり相談に乗ってもらう時間があってもいいんじゃないかと思ったりもした。

担当の先生がとにかく楽観的で、
あたし「入院ってどのくらいなんですか?」
先生「一週間で退院出来ますよ。」
あたし「全摘出手術した後、どれくらいで仕事復帰出来るもんなんですか?」
先生「退院したら、普通に日常生活送ってもらって大丈夫ですよ。」
ってな調子。

実際に同室仲間も全員一週間で退院したし、さすがに次の日から仕事という訳にはいかなかったけど、確か二週間後には仕事に復帰した。
勿論フルタイムではなく、最初は午前中だけとか、短いシフトで徐々にフルタイムに戻していったけど。

退院して一番びっくりしたのは、腹筋背筋が弱って、畳の上に座るのがしんどかった事。
姿勢を維持出来ないのだ。
手術後も寝たきりという訳ではなかったのに。
こんな簡単に筋肉って落ちるのかと唖然とした。
日常生活を送る事がそのままリハビリにつながると思って、出来るだけ家事もこなそうとしたけど、長時間立ってるのもやっぱりしんどかった。
それでも大したもんで、仕事復帰した時には、歩く座るは全く問題なくなっていた。

ただ全摘出して真っ平らになった左乳房に水が溜まって来るのだ。
言ってみれば胸の脂肪をそいで皮だけになった空洞に、徐々に染み出した体液が溜まって来る訳なんやけど、これが染みて痛いのよ。
真っ平らになったはずの左乳房が、太った男の子みたいにちょっとずつちょっとずつ膨らんで来る皮肉。
身体を傾けると、左胸の水がサーッと揺れて、ジンジンして痛いのだ。
クリニックに電話を入れて、水を抜いてもらう事にした。
担当の先生が草津の本院ではなくて、京都の堀池の病院に居る日で、電車を乗り継いで行くのに、一歩一歩踏み出す度に胸が染みて、両手で押さえながら歩いた。
病院で注射器で抜いてもらったら、嘘のように痛みが治まって、こんななら辛抱しないで、もっと早く来れば良かったと後悔した。

先月、知り合いの子が同じく全摘出手術を受けて、「水が溜まって来ました。」と言うので、「辛抱せんと先生に言って抜いてもらいな。」とアドバイスして、「抜いてもらったら楽になりました。」と報告してくれた。
経験者が側に居る事の大きさ。

あたしは自分が再建手術完了するまでに、全部ほぼ一人で決めたので、何回も大きい博打をしてるみたいだった。
結果的に再建手術も成功だったし、本当に本当に再建して良かったと思うけど、やっぱりもっと情報が欲しかった。

なので、自分からベラベラ喋る事は病気自慢みたいなのでしないけど、聞かれたら全部隠さずに話して来た。
あたしの話を聞いて、自分の症状と比べて違いに戸惑う人も居たりして、それが正解かどうかは判断が難しいけれど。

でも、不安で不安で仕方ない人に、
〝先が見えへん感じでどうなるんやろ?って思うかもしれへんけど、身体は良くなろう良くなろうとちゃんと頑張ってくれるから大丈夫やで〟と、言ってあげられる経験を自分がさせてもらえたと思えば、ものすごく有り難い。

あたしの人生の大きなオプションを神様にもらった感じ。
失って得るものもある。
やっぱり人生に無駄な事は一つもない。

あ~痛ぁ。
やっぱり膝診てもらいに病院行こう。


あ、全然関係ないけど、やすともさんのフォトライブ、むっちゃ行きたかった~。
でも、最後ステージ上で出演者全員で寝そべって撮ってる写真。

アニキのともよさんへの寄り添い方。
イジられる気満々やん。

『ケッ! あざとい野郎やで。』