隣人のその先。その⑤【脳内アニキvol.20】

2020年9月14日

翔「姉ちゃん!姉ちゃん!」
楓「う…う~~ん。もしもし…?」
翔「姉ちゃん寝てんの?」
楓「う……う…ん。今日授業午後からなんやんか。………何?」
翔「ほなTwitterも見てへんの?あんな稲ちゃんコロナ感染したって。」
楓「稲ちゃん…?稲ちゃんってアインシュタインの?
翔「うん。その稲ちゃん。 」
楓「ええっ!」
翔「稲ちゃんがコロナ感染して、ゆず兄は自宅待機してるって。」
楓「自宅待機って、ゆずるは感染してへんの?」
翔「あ~どうなんやろ?結果待ちなんちゃうかな。」
楓「え~~、どうしよ。」
翔「どうしよってどうも出来んけど…。」
楓「ちょっとあたし、ゆずるの様子見て来る。」
翔「姉ちゃんっ。アカン、アカン!」
楓「何で、心配やん。」
翔「なんぼ心配でも、ゆず兄は自宅待機やろ?」
楓「ほやし、あたしが様子見て来てあげんにゃん。」
翔「姉ちゃん、落ち着いて。いい?もしかしたらゆず兄もコロナに感染してるかもしれん。」
楓「あたし、そんなん気にせんもん。」
翔「気にしなアカンがな。」
楓「何でよっ。」
翔「何でって…。姉ちゃんってホンマにアホやな。」
楓「は?こんな時に何言うてんの。怒んで。」
翔「怒らんと落ち着いて聞いて。な。稲ちゃんが感染したって事は、隣で漫才してるゆず兄かって感染してる確率だいぶ高いと思う。」
楓「そんなん分からんやん。」
翔「分からんから、今調べてもらってるねんろ。アカン。さっきから全然話が進まんやん。」
楓「もういい。とりあえずゆずるがどうしてんのか聞いて来る。」
翔「そんなんゆず兄は絶対会ってくれんで。」
楓「何でよっ。」
翔「自分がもしかしたらコロナに感染してるかもしれんのに、姉ちゃんに会う訳無いやん。」
楓「会えんくっても、声聞けるだけでいいもん。」
翔「そんなん迷惑やって。」
楓「翔。あんたウッサいわ。切るで。」
翔「ちょっと姉ちゃんっ。姉ちゃん?」

楓はその時には部屋を飛び出していた。

アニキの部屋のインターホンを鳴らす楓。

楓「ゆずる。ゆずる。」
アニキ「……はい。」
楓「ゆずる、楓。」
アニキ「あ~。ゴメン。俺、稲田がコロナに感染したし、今自宅待機中なんやんか。」
楓「知ってる。知ってるし、心配で来た。」
アニキ「気持ちは有り難いけどな…。」
楓「ゆずる、大丈夫なん?」 
アニキ「おお。今んとこは全然どうも無いで。」
楓「そっか、良かった。楓になんか出来る事無い?」
アニキ「出来る事は、俺に近寄らん事やな。」
楓「うん…。」
アニキ「楓ちゃん。」
楓「え?」
アニキ「悪いけど、もし俺が感染してたら、楓ちゃんにも伝染してるかもしらん。」
楓「もっかい言って。」
アニキ「そやから、もしかしたら俺伝染してるかもしれんのよ。」
楓「違う!そこじゃ無い!」
アニキ「何?何処よ?」
楓「今、〝楓ちゃん〟って言ってくれた。」
アニキ「あ~~。言うたな。」
楓「むっちゃ嬉しいっ!」
アニキ「あの~、今そういう話してんのと違うのよ。」
楓「ほんなん、やっとゆずるが〝自分〟やなくて〝楓ちゃん〟って呼んでくれてんもん。」
アニキ「ハハハ~。ほんでな楓ちゃん。」
楓「何?ゆずるぅ?」
アニキ「もし、俺が感染してたら、楓ちゃんも念の為検査受けて欲しいんよ。保健所から連絡してもらうし、電話番号教えといて。」
楓「ええっ!名前呼びからいきなり電話番号聞かれたっ!」
アニキ「いや、遊んでるんちゃうのよ。ほんであんまりインターホン越しでも喋らん方がええのよ。」
楓「分かった。え、番号言うたらええの?」
アニキ「ちょっと待ってて。スマホ持って来るわ。」
アニキ「はい。教えてくれる?」
楓「090-………。」
アニキ「はい。ありがとう。楓ちゃんって名字なんやった?」
楓「真田。真田楓。」
アニキ「さなだかえで。ちょっと言いにくいなぁ。」
楓「大丈夫。いつか河井楓になるし。かわいかえで。むっちゃいい響きやん。」
アニキ「ガッハハハ~。アカン。笑ろてもた。そしたら、もし万が一の事があったら、保健所から連絡行くと思うし。」
楓「ええ?そんだけ?」
アニキ「ああ。ホンマにごめんな。」
楓「ちゃうやん。人に携帯の番号聞いといて、自分の教えへんつもり?」
アニキ「うわーっ。そう来たか。」
楓「ゆずる、あたしが信用出来ひんの?あたし、今まで誰にもゆずるが隣やって言って無いねんで。それでも信用出来んの?」
アニキ「ああ。そうやな。陽性やったら連絡せなアカン事あるかも知れんしな…。」
楓「早よ、掛けてみて。」
アニキ「はいはい。」

こうして、楓は稲ちゃんのコロナウィルス感染により、アニキと電話番号の交換に成功した。

楓「稲ちゃん、ナイス。たまにはええ仕事するやん。」


つづく。