隣人のその先。その④【脳内アニキvol.19】

2020年9月◇日

楓「翔~。」
翔「ああ、姉ちゃん。」
楓「フッフッフッフ~。」
翔「何?何?」
楓「聞いてっ!」
翔「聞いてるって。」
楓「ゆずるが、ゆずるが…」
翔「うん、うん…。」
楓「とうとうあたしの部屋に来ましたぁっ!」
翔「ええーっ!マジでっ?」
楓「あの子、やっぱり優しいわ。」
翔「何よ?どういう事?」
楓「翔、ブレーカーって知ってる?」
翔「ブレーカー?」
楓「あんた、ブレーカーも知らんの?」
翔「もう~、早よ本題入ってぇや。」
楓「フッフッフッ。昨日、お風呂上がってから髪の毛乾かそう思ったら、バンッって真っ暗になったんよ。」
翔「うん。」
楓「そんでなかなか点かへんし、ゆずるんとこに助け求めに行ってん。」
翔「うん。」
楓「ほんでな、ゆずるがブレーカーをONにしたらいいって言うねんけどさ、あたしブレーカーが何処にあるか分からんかってん。」
翔「ああ!そんで見に来てくれたんや!」
楓「もう~、あたしが言おうと思ってたのに。」
翔「なんや、そんなんかぁ。あ~びっくりした。姉ちゃんとゆず兄がどーかなったんか思ってビビったわ。」
楓「けど、お風呂上がりのあたしの部屋に、お風呂上がりのゆずるが来たんやで。」
翔「ただ単に、姉ちゃんがブレーカー分からんから、見に来てくれたんやろ?ゆず兄は優しいねん。何かあったみたいに言うなや。」
楓「これやからお子ちゃまは嫌やねん。」
翔「はいはい。」
楓「あんたは何にも分かって無いわ。ゆずるも男やで。」
翔「なんか、嫌な言い方すんなぁ。」
楓「ゆずるな、楓が喋りかけるやん。」
翔「うん。」
楓「そしたら、絶対あたしの胸見て来んねん。」
翔「ああーっ。そうやった。ゆず兄とにかく巨乳好きやったぁ。TENGA茶屋で胸が小さい女なんて有り得へんって言うてたもん。ほんで姉ちゃん無駄に胸デカいねん。」
楓「無駄にデカいってなんよ。無駄では無いやん。きっちりゆずるが惹かれてんねんし。」
翔「姉ちゃんにで無く、胸にな。」
楓「ほんでさ、せっかく部屋に来てくれたしさ、なんか飲み物でも飲む?って誘ったんやんか。」
翔「誘い方、古っ。」
楓「けど、あの子照れ屋やん?断りやってん。」
翔「ほんで?」
楓「ほんだけ。」
翔「ええ~~と。姉ちゃん?これからずっとこんな感じで僕話聞かされんの?」
楓「だってさ、あんたしか居てへんねんもん。ゆずるの話が出来んの。」
翔「姉ちゃんまだ誰にもゆず兄の話してへんのや。」
楓「してへんわ。」
翔「偉いやん、姉ちゃん。絶対友達にもう喋ってる思ってたわ。」
楓「あたしかて、むっちゃ言いたいわ。むっちゃ言いたいねんけど、それ喋ってしもたら、ゆずるのあたしに対する信頼が崩れる気がするやん。」
翔「う~ん。そもそも信頼みたいされてへん思うけどな。」
楓「ウッサいな!けど、ここ大事やん。」
翔「確かに大事。」
楓「隣に若い胸の大きい女の子が引っ越して来て、しかもその子は自分との事誰にも喋って無いねんで。これ絶対ゆずるに刺さってるやろ?」
翔「刺さってるんちゃうか。」
楓「何やの、あんたノリ悪いなぁ。」
翔「僕はゆず兄がやっぱりホンマに優しいんやって分かって嬉しいわ。」
楓「そんな優しいゆずると、自分の姉ちゃんの甘酸っぱい未来を応援したろって気はないの?」
翔「出来たらゆず兄の彼女はまともな人であって欲しい。」
楓「何やのよ。あたしがまともや無いみたいやん。」
翔「姉ちゃん。姉ちゃんは割とまともでは無いで。」
楓「もういいわっ。次見ときや。」
翔「それが怖いねん。」
楓「翔。あんたもアホやな。ゆずるとあたしが上手い事行ったら、ゆず兄がホンマに翔のお義兄さんになんねんで。」
翔「うわぁ~。嬉しいような怖いような。」
楓「喜ぶしか無いやろ。とにかくあたしとゆずるが上手い事行く様に祈ってて。」
翔「う~ん。了~解。」
楓「ほなな。」
翔「うん。」


ゆず兄と姉ちゃんがどうにかなる……?

ってか、冷静に考えたら、ゆず兄って姉ちゃんの倍以上生きてるやん。

もし、もし、ホンマにゆず兄がゆず義兄になったとしたら…。

ええ~~と。

パパが河内の死神で、ママが岸和田のメドゥーサで、姉ちゃんの旦那が40歳のお笑い芸人…。

「…………………。」

「勉強しよっ。」

そこはかとない将来への不安は、人を現実の充足へと向かわせる。

この日、翔はかつてない程に勉強がはかどった。


つづく。