その名は『Dr.松』
2ヶ月半振りの加藤乳腺クリニックの診察日。
何度もの手術を経て左胸の再建も終わって、今はこのトレミフェンを服用するだけの治療になった。
あたしの乳癌は女性ホルモンを餌にして活発になるタイプの癌なので、女性ホルモンの分泌を抑える必要がある。
それで処方されたのが、このトレミフェン。
強制的に閉経させる為の注射や抗癌剤投与してた時は、毎回2万円~2万7千円くらい支払ってて、会計で金額を告げられる度に軽く気絶しそうになった。
その事を思えば薬代だけで済むので、だいぶ楽になった。
でもこのトレミフェンを処方する時の先生の言葉がなんとも言えなかった。
「女性ホルモンの分泌を抑える薬なので、副作用としてはシミや皺が出て来たり、肌がくすんだり骨粗鬆症になったり…、要は老けます。」
な、なんですと???
ほんな怖い薬ある?
っちゅーか、先生、他に言いようないか?
でもさすがに専門医。
ほんまにトレミフェン服用するようになってから、シミ、皺、くすみ、今までの3倍速くらいで現れる、現れる。
脅しでも何でもなかったわけや。
同級生から「〇〇ちゃん、手に全然皺ないなぁ~。羨ましい~。」と言われてたのに、もうなんかこの3年で10歳くらい老けた気がする。
このまま服用してたら来年には見た目60歳くらいになるんちゃうか。
全摘手術は加藤クリニックの主治医にしてもらったけど、再建手術は専門の先生が辞めて、京都の武田病院に移ってしまわれたので、武田病院でしてもらった。
この先生、もー突っ込みどころ満載。
加藤クリニックにおられた時に、かなりの症例の再建手術をして来られた先生なので、腕は確か。
自分が再建した患者さんの胸を「僕の作品」と呼ぶ。
そして『Dr.松の乳房再建』というブログをやっている。
あたしは自分が再建手術するにあたって、とにかく情報が少なくて困った。
周りに乳癌になった人はそこそこ居る。
でも全摘手術して、その後再建手術した人なんて周りには全く居なかった。
どんな手術で、再建した胸ってどんな風なんか…。
ネットで調べるしかなくて、でもネットにもほとんど症例写真なんて掲載されてなくて。
なので、少しでも再建手術する人の参考になればと、術前術後の記録写真を学会、病院での術例紹介、先生個人のブログ、どの媒体に載せてもらってもOKにサインした。
だから、手術前に先生が撮影するんやけど…。
「じゃあちょっとゴメンなさいね。お胸見せてもらっていいですか?」
と言いながら先生がスマホを取り出した。
「えっ?スマホ?胸の写真撮って公表するのにスマホなん?」
「せめてデジカメちゃうの?」
「って言うかそのスマホ、先生の個人所有のスマホちゃうやんな?」
「そのスマホは個人情報管理は大丈夫なんやろな?」
心の中でツッコミまくったけど、サインしたのはあたしやし、もうここは信用して腹括るしかないかと何も言わなかったけども。
なんか全てがこの調子で、軽~いのよ。
でも、かなりの症例の手術をして来られたDr.松に、あたしは『ベストオブ再建』と言ってもらった。
そう、かなり綺麗に、遠目に見ればパッと見再建した胸とは分からないくらいに仕上がったという事。
自分でもかなり満足。
何度も手術重ねて、術後出血が止まらなくて、夜中に先生や麻酔医を呼び出して緊急再手術なんて恐ろしい目にもあったけど、それでも再建して良かったと心底思ってる。
でも、でも、何故か『Dr.松の乳房再建』のブログにあたしの胸が載ってない。
どうして?
なんで?
先生、何かあたしの胸に問題でも?
再建完成当時50歳だったけど、シミも傷も全くない綺麗な胸よ。
ねえ、先生! Dr.松!
何かあたしの胸に問題でも???