屋根裏部屋の子育て

『帯びてま~す、帯びてま~す。カ・ナ・シ・ミ、帯びてま~す。』

………アカン。
「さんま、岡村の花の駐在さん」見てから、稲ちゃんのこのフレーズが頭から離れへん。
もう確実に50回は脳内リピートした。
しかも、あの時の稲ちゃんの画像付きで。

これはなかなかキツい。
なんちゅーか、脱力する。

昨日、本部のポップ課からパソコンに送られて来たダミージャケットの画像をプリントアウトして、カットする。という比較的地道な作業をしていた時、フッと口から漏れ出て「はっ!」となった。
思わず周りに人が居ないか、見渡したわ。
どうやったら消えるねんろ~。
何かで上書きしないと。

それに、「とてっ!」も言いたくて仕方ない。
けど、これさ、元々アニキの口癖やん。
稲ちゃん、思い切りパクってるやん。
パクったネタで、さんまさんの心鷲づかみ。
したたかになって来たね、稲ちゃん。


全く話は変わる。

あたしはいつも12:00~13:00の間くらいに、お風呂に入る事が多い。
この4日間程、お風呂に入ってると、お風呂場と流しとおくどさんの水屋の天井(屋根裏)を、猫が動き回る音がする。
トットットッ…。みたいな。

築50年以上の日本家屋なので、あちこちに隙間があって、猫やイタチなんかが屋根裏を歩き回るのはよくあること。
もう諦めている。

でも、親猫が歩き回る音に混じって、「ミャ~。」って子猫の鳴き声が聞こえるのだ。
「あちゃー、これ完璧に屋根裏部屋で子育てしてしもてるやん。」
ほんで子猫の鳴き声が動き回るのだ。
親猫が口に咥えて移動してるんやろか?
お風呂場なのでやたら音が反響して、ベニヤ板一枚隔てただけみたいな、凄い近くに聞こえる。

でも歩き回るくらいならいいのよ。
それが時々
「ダッダッダー!」
「ガタンっ、ゴト!バサッ!」みたいな派手な音がするのだ。
「ちょっとちょっと何してる訳?」
「走ってるやん、思い切り走ってるやん!」
「何か咥え込んで来たやろ?なぁ、何か運び込んで来たよね?」
って、湯船に浸かりながら、屋根を睨んでジーッと息を潜めている。

あたしが子供の頃はずっと猫を飼っていた。
飼っていると言っても、首輪もしてないし、家の中に閉じ込めている訳でもなく、外へは自由に出入りしていて、野良猫と飼い猫の中間みたいな育て方をしていた。
なので、雨の日は泥だらけの足のまま帰って来て、雑巾持って追い掛けたりしていた。

その歴代の猫達に共通している事があった。
何故かいつも5匹ずつ子供を産むのだ。
父親が誰かなんて分からない。
子猫が段々大きくなって来て、縞やブチの柄がはっきりして来て初めて「お前か!」と見当がつく。
もの凄い緩~い飼い方だった。

ただ飼い猫と言えども、普通出産は人目を盗んでするものだ。
なのに、確かペスという名前の飼い猫は、ある日あたしの布団の上で出産した。

まだ小学校低学年だったあたしは、夜中なんとなく目を覚まし、暗闇の中「フ~。」という微かな鳴き声を聞いた。
何かがあたしのお腹の上で動いている。
「う…ん?」
長く垂らした蛍光灯の紐を引っ張ってみる。
な、なんと、布団が血だらけ。
その血溜まりの真ん中で、ペスが赤ちゃんをひたすら舐め舐めしているではないか。
「ええっ!」 
びっくりしたあたしと、確かにペスは目が合った。
でも、ふんっと言ったか言わないか、あたしを完璧に無視して、赤ちゃんを舐めるのを止めなかった。

「この広い家の中で、ほんなピンポイントであたしの布団の上選ぶかっ!」
なんて小学校低学年のあたしはツッコむ事も出来ず。
「ええ…。」
小学校低学年のあたし、絶句。
どうしたらいいのか分からず、しばらく畳の上で正座してぼーっと見ていた。
その後どうしたんやろ?
お母さんが高い布団がアカンようになったと怒っていたのは覚えている。

あの時の事を思えば、屋根裏部屋で子育てしてくれるくらいは構わない。

ただちゃんと育ててくれ。
歴代の飼い猫の中で、時々産みっぱなしでほとんど世話しない猫が居た。
5匹居たはずの子猫が、4匹になり、3匹になり…。
一体何処に消えるんや?と思ってたら、何カ月かして納屋の隅っこで死骸が見つかって「うぎゃっ!」なんて事もあった。

屋根裏部屋に子猫の死骸が横たわっている……なんて勘弁して欲しい。

湯船に浸かりながら、「ダッダッダー!」と派手な音がする屋根を睨みながら、そう願うあたしなのであった。