不便は発明の母

左手甲を9針縫って今日で五日目。

ちょっとずつ快方に向かっているのが分かる。

手術した日は、手を下に下げてると痛くて堪らなかった。
血が下がるのが傷口を圧迫してるんだろう。
三角巾で吊るのは大げさやし、シャツやポロシャツのボタンの所に親指を入れて、胸元で固定してみたり。

胸元に手を持って来て、いつも誰かに忠誠を誓っている人みたいになった。

少しでも手の甲を捻る様な動きは痛かった。
職場でレンタルDVD のケースを開けてキズのチェックをするのだけど、開ける時に一瞬グッと力入れるのが痛くて、なかなか開けられない。
ほとんどが常連さんなので、皆ジッと待っていてくれて助かった。
ご迷惑お掛けしました。
今日辺りはだいぶマシになった。

あと、ペットボトルを開けるのも難儀した。
3本の指が使えたら問題なさそうなもんやけど、左手にペットボトルを持って、キャップを開ける時グッと力を入れて動かない様に固定する。
それが結構力が要るのだと改めて知った。

同じ原理でタオルを絞るのも痛い。
左手にビニール袋を被せて濡れない様にしてお風呂に入る。
ただでさえ力が入らないのに、ビニール袋で滑って余計難しい。

そこで編み出したのだっ!
左手を使わずにタオルを絞る方法。

湯船に左足を掛ける。
濡れたタオルを左膝に挟む。
右手でタオルを捻る。
位置を変えて何度か捻る。

……完璧には絞れないが、身体がドボドボのまま脱衣所に出るリスクは減った。
人間、不便だと工夫するようになるのである。
不便は発明の母。

なかなかやるではないか、あたし。
ちょっと得意。
俯瞰で見た時にシュール過ぎる一点を除いては。

家事も全てやる。
食器洗いもお風呂に入る時同様、左手にビニール袋を被せて洗う。
滑るので慎重に。
ものすごく時間がかかる。

洗濯物を干す時に、両手でパンッパンと払って、シワを伸ばして干すのが出来ない。
右手一本でパンッパン、位置を変えてパンッパン。
なんとかシワは伸びる。

一番困るのが、手を洗う事。
左手ではなく、右手を洗うのが難しい。
手を洗う時って、両手をこすり合わせる事で汚れが落ちるのだ。
左手を濡らせないので、右手の汚れが取れない。
ここでも編み出した。

まず、右手に石鹸を付けて洗面台をこすって綺麗にする。
この時に掌の汚れは取れる。
汚れてるとちょっと抵抗はあるが、次に使う人が気持ち良く使えるならいいではないかと割り切る。
その後すすいで、もう一度石鹸を付けて指をこすり合わせる。
そして左手の3本の指を洗う。
すすいでハンカチで拭き取る。
完璧。

日常の何気ない動作の一つ一つで、左手甲の力に頼ってたんやなと実感する毎日。

左手よ、その有り難さに気付かず過ごして来てしまった事を謝る。
すまぬ。。

そして、昨日。
お風呂で新しい発見をした。

タオル、最初から身体洗う用と、拭く用と二枚持って入れば、左膝に挟んで絞る必要は無い。

シュールなあたしにさようなら。