隣人。その6 《脳内アニキvol.12》

楓のスマホが鳴る。

locofrankのStartだ。(アインシュタイン出囃子)

翔(かける)が家族のスマホの着信音を「これが鳴ったら僕から掛かって来たって事な。」と勝手に設定したのだ。

友達の着信音も片っ端からこれにさせているらしい。


翔「もしもし?姉ちゃん?」
楓「あ、翔。ちょうど良かった。今掛けよう思っててん。」
翔「あんな、姉ちゃん。」
楓「翔。あんたにだけはあたしの決心を語っとくわ。」
翔「え?何言うてんの?」
楓「翔。あたしな、ゆずるはあたしが守る事にした。」
翔「は?」
楓「ほやから、ちゃんと聞き。ゆずるはあたしが守る事にしてん。」
翔「何?何言うてんの?え?何がどうなってこーなって、姉ちゃんがゆず兄を守る事になんの?」

楓が亜希子とのやり取りを翔に説明する。

翔「エエッ!!ママがメドゥーサに覚醒したって事やんっ!危ない危ない危ない。どうしよう、姉ちゃん。ゆず兄が殺される。」
楓「大丈夫や、翔。ゆずるはあたしが守るって言うたやろ。絶対に手出しなんかさせへん。」
翔「姉ちゃん、何か秘策があんの?」
楓「秘策?秘策………。う~んと、特には無い。」
翔「無いんかよッ!」
楓「え~、ほんなん、ゆずるはあたしが守るってさっき決めたばっかしなんやもん。」
翔「何やねん、それ。一瞬姉ちゃんに期待した僕がアホやったわ。」
楓「かたじけない。」
翔「何か言葉のチョイス間違うてるで、多分。そんな事よりっ!パパが今朝〝お前一人で留守番出来るな?明日パパ楓んとこ行くさかいな。〟って朝早う仕事行ったで。パパまでそっち行く言うてるやん。どーなってんのん?」
楓「そうなんよ。メドゥーサが現れて翔に言うの忘れてたわ。今朝パパから電話掛かって来て、ゆずるがあたしの部屋の隣やって聞いて、あたしにちょっかい出さへんように釘刺しに来るんやて。」
翔「エエッ!パパにも睨まれてるやん。ゆず兄もう絶体絶命やん。」
楓「そうなんよな。」
翔「落ち着いてる場合かっ!どうすんねん、ゆず兄になんかあったら!」
楓「それは誰にも止められへん。」
翔「さっき自分が守る言うたんちゃうんか!」
楓「あ、そやった。なんか、まだマザーテレサになり切れて無いんよ。」
翔「マザーテレサ?どっから出て来たん?」
楓「今出した。ゆずるを守るあたしも何か名前欲しいなって思って。メドゥーサに対抗するんならマザーテレサやろ?」
翔「違う、絶対違う。もう姉ちゃんの名前みたいなんでもええわっ。それよりゆず兄やんか。パパは明日そっち行く言うてる。」
楓「うん。」
翔「ママはそっちにいつまで居るん?」
楓「ママは明日帰るって言ってるで。」
翔「あ~、分かった。」
楓「何が?」
翔「パパがホンマにそっち行く理由。パパは姉ちゃんなんかあんま関係無いねん。」
楓「何でよ?」
翔「パパはママがゆずるにちょっかい出さへんように、連れて帰るつもりなんやて。」
楓「あ~なるほど。」
翔「パパな、ママがそっち行ってから落ち着かへんかってん。パパが一緒に行ったら良かったて、ブツブツ言うててん。」
楓「ママがチョロチョロせんか不安なんや。」
翔「しっかりママはチョロチョロしたしな。」
楓「ゆずるにお弁当作ったりして。」
翔「パパはその事知らんにゃろ?」
楓「うん。言うてない。ママも喋って無いわ。」
翔「絶対言うたらアカンで。パパがそんな事知ったら、ゆず兄のあのくりくりパーマにライターで火点けてチリチリにするくらいの事は平気でするで。」
楓「うん。いっつもスネ毛の処理もライターの火でサッと炙って落としてるもんな。エステなんか行って脱毛しとる奴はアホや。言うて。」
翔「ライター使わせたらパパの右に出るもんはおらん。ってよう言うてる。けど、パパの手の甲に火傷の痕あるで。」
楓「アホやな。あれは火傷やのうて〝根性焼き〟やんか。」
翔「根性焼き?」
楓「あんた、根性焼き知らんの?これやでお子ちゃまは嫌やねん。」
翔「根性焼きって何なん?」
楓「後でスマホで調べいさ。そんな事より、ゆずるにこの事態を教えたらなアカンやん。何も知らんと呑気に大阪で仕事してんのやろ?」
翔「呑気では無いって。ゆず兄一生懸命仕事してるって。今度ドラマに出んねん。ほやからくりくりにしたのに、チリチリになったらイメージ変わるし絶対アカンねん。」
楓「そんなんはどっちでもええねん。どうやって伝える?あんた大ファンなんやから、Twitterとかインスタとかフォローしてんねんろ?それで教えたったら?」
翔「アカン。今ゆず兄ってな、Twitterやったら350人以上フォローしてんねん。下手な事書いたら大事になってまうもん。」
楓「ほんならどうすんのよ?」
翔「姉ちゃん、僕に任せといて。いい考えがある。」
楓「ほんま?任せてええんやな?」
翔「うん。」
楓「ほんなら、ゆずるに伝えるのは翔に任せて、パパとママをどう食い止めるかやわ。」
翔「う~~ん。あ、パパが帰って来た。夜また電話するわ。作戦練ろ。」
楓「分かった。ほんならな。」
翔「うん。バイバイ。」


つづく。