隣人のその先。その⑲【脳内アニキvol.34】
翌日の夕方、楓がジョーの為にAmazonで購入した犬用のミルク、エサ入れのフードボウル、オシッコ用シート等、諸々のペット用品が届いた。
コンビニでアルバイトを始めてから、一番大きな出費だ。
でも、もったいないという気持ちには不思議とならなかった。
心なしか、ジョーは昨日より元気があるように見える。
ブルブル震えてたのも、プルプルくらいになった。
クンクンとあちこち嗅ぎ回る様に動いたりする。
「いい?今日からあんたはジョーやで。」
「聞こえてる?」
「ジョー。ジョーやで。」
分かってるのか分かってないのか、鼻をクンクン言わせながら、楓の顔をジッと見てくるジョー。
早速ミルクをあげる。
クンクンと匂いを嗅いだ後、恐る恐ると言う感じでピチャピチャと飲んでくれた。
「やった!飲んだ!」
「ジョー、えらいえらい!」
「あ~、やっぱり可愛い。」
頭を撫で撫でしてあげる。
口の周りをミルクで白く濡らしてるジョーの口元をティッシュで拭き取り、そーっと抱き上げると、楓の腕の中にちんまりと収まる。
何とも言えない温もり。
ジョーの体温に癒やされていると、チャイムが鳴った。
「うん?Amazonはもう届いたのに。何やろ?」
玄関のドアを開けると、そこには両手に一杯の荷物を下げたアニキが立っていた。
アニキ「ただいま。」
楓「お、お帰り。」
アニキ「ちょ~、入らせてもらで。いい?」
楓「って言いながら、もう入ってるやん。」
楓には目もくれず、ダッシュで部屋に入り込んだアニキは、ジョーの元にまっしぐら。
アニキ「ジョー、ジョー~~。うわぁ~アカン。めっちゃ可愛い。ちょ~抱かせて。」
ジョーを抱き上げてスリスリしたおすアニキ。
顔中皺くちゃにして40男がもうデレデレである。
ひとしきりジョーを撫で撫でした後、アニキはリビングの床にドサッと置いた荷物の中身を開け始めた。
アニキ「俺色々買うて来てん。」
楓「色々って何を?」
アニキ「決まってるやん。ジョーのもんやんけ。」
楓「ええ。これ全部?」
アニキ「おう。昨日ロクな寝床作ったげられへんかったやろ。俺夕べそれが気になって気になって…。」
楓「寝床?寝床って何?」
アニキ「寝床知らんのかっ?うわぁ~、ジェネレーションギャップ感じるわ。寝床って分かりやすく言うたら、ベッドよ。」
楓「ベッドの事なんや。これがその寝床?むっちゃ可愛いやん。」
ベージュのボアにくるまれた丸いベッド。
黒と白の肉球🐾のワッペンが貼ってある。
楓「これ、ゆずるが買うて来たんや。なんか買い物してるとこ想像したら笑える。」
アニキ「何がおかしいねん。それからこれがトイレな。」
楓「オシッコ用シートなら買ったで。」
アニキ「シートだけあったかてアカンやろ。ちゃんとトレーの上に敷かんと。床濡れるやんけ。」
楓「なるほど。」
アニキ「ほんでこれがミルクとチュールな。」
初めて赤ちゃんを迎える新米パパの様に、嬉々としながら次々買って来た物を見せるアニキ。
一通り買って来たペット用品を披露し終わった後、立ち上がると、楓の部屋を見渡すアニキ。
アニキ「ちょ~、これなんやねん。鞄とかどけてもっと床綺麗にせえや。ジョーが歩くのに邪魔になるやんけ。」
楓「ちょっと置いたるだけやん。」
アニキ「ほらAmazonの段ボールも折り畳んで片付けろって。」
楓「今から片付けようと思ってたんやて。」
アニキ「ほんでよう見たら、床ホコリっぽいのう。コロコロある?」
楓「あ、はい。これ。」
床に置いてあるジョーにとっての障害物になりそうな物を片付け片付け、アニキはコロコロ片手に掃除しだした。
一通り掃除し終えると
アニキ「ベッドとトイレ何処に置く?」
楓「え?ベランダの窓んとことか?」
アニキ「そんな窓際寒いからアカンって。こんな子犬やのに、冷えたらアカンやろが。」
楓「ほな、こっち?」
アニキ「おう。そこしかしゃーないな。」
楓「なんか人の部屋に文句ありそうな顔やめてくれる。」
アニキ「いや、別に文句言うてる訳ちゃうけど。」
そう言いながら、アニキはあれやこれや注文付けた上、もう一度ジョーを抱っこして、カシャカシャ写真撮りまくって、帰って行った。
アニキが帰った後、静かさを取り戻した部屋で、楓はジョーを抱きながら呟いた。
「ゆずるって………、想像してた以上に面倒くさいな。」
つづく。(かも。)